周は息子二人の遣り取りを少し面白げに眺めていたが、それを聞くとすぐに表情を切り替えた。

「…何処で知った、それ」

「香也が言ってたんだ。晴の力のことで何か知ってるのか訊ねたら、こう言われた」

「獅道が何なのかは解ってるか?」

「…冬霞の国の領主一族で、国一番の魔導士の名家。いくつもの分家筋に分かれてる大きな家柄で、ついでに言うとうちとあんまり仲が良くない」

霊奈と獅道の不仲説は、他国でも真(まこと)しやかに囁かれている。

国同士が敵対するほど表立って対立している訳ではないが、どうやらお互い絶対に相容れない点があるようだ、と。

「子供の頃しょっちゅう勉強さぼってた割に、随分お利口な答えじゃねーか」

「俺、父さんの息子だから」

「ほほう?」

(似た者親子ってことか?)

「…まあとにかく、残念なことにうちと獅道は少々仲がよろしくない。俺はあんまりそういう言葉を使いたくないから教えなかったが…理由はお前が聞いた言葉の意味通りだよ」

使いたくないと言った通り、周は何処となく次の説明も言い出しにくそうに眉根を寄せた。

「獅道は伝統や通例を重んじるために一族同士でしか婚姻を許さない。その上、愛国心や自尊心がとても高いんだ。国を愛する気持ちが強いのは決して悪いことじゃないがな…そういう少々排他的な相手を“為来り好きの獅道”って揶揄する言葉が昔からあるんだよ」

「…冬霞には私も前に行ったことありますけど…国全体にもそんな傾向があって、冷たいって程じゃないけど何となく落ち着かない国でしたよ」

夕夏の言葉に、周は少し悲しげに苦笑した。

「対するうちは、一族に混血が多いし移民の受け入れにも抵抗がない。俺も秋雨の血が入ってるし…獅道に比べれば、昔からの伝承なんかが世代ごとに薄れてるのは確かだな。それが“型破り好き”だって非難される所以(ゆえん)だよ」

周は自身の白金髪をわしわしと掻き混ぜた。