「ねえ…ふゆちゃん、かあさんととうさんは?おうち、かえろ?」

不意に両親のことを問われ、ずきりと胸が痛む。

「…ごめん、今は帰れないんだ。でも俺もみんなも、いるからさ…寂しくないだろ?」

晴海は少し泣きそうな表情を浮かべたが、ふと何か考え込むように俯くと小さく頷いた。

「……なんだかすごくねむいの。もうすこし、ねててもいい…?」

「ああ、いいよ」

すると晴海の掌に絡め取るように手を握られ、じっと眼を覗き込まれる。

「……ふゆちゃん、そばにいてくれる?…いなくなったりしない?」

「…此処にいるよ。大丈夫」

晴海はぽすんと横になると、我慢していたのかすぐに眠ってしまった。

向こう側の陸から凄まじい嫉妬の念が飛んできている気がするが、無視しよう。

夕夏は寝息を立てる晴海の頭を撫でてやりながら、小さく溜め息をついた。

「晴海…一体どうしちゃったの?」

「これは…十年前の姉ちゃんだ。病気が酷くて家族以外とは接する機会も殆どなかったから、かなり人見知りだった頃の…」

まるで、記憶と精神があの頃まで退行してしまったようだ。

「今まで抑えてあった能力が覚醒したことと何か関わりがありそうだけどな…この調子だと風弓くん以外はなかなか寄せ付けなさそうだね」

陸はじっと考え込むように押し黙っていたが、不意に何か思い立ったようにくるりと踵を返した。

「陸?」