「…ごめん、話が逸れた。だけど結局、父さんにも晴の力のことは解らなかったんだ。能力の仕組み自体は普通の能力者と同じだったから、封じることは父さんにも出来たんだけど…」

「なのにあいつ…香也は姉ちゃんの力のことを知ってた。あいつはあの能力の特性も扱い方も、全部解ってるみたいだったんだよ」

充は娘が能力者だということを、信頼出来る一部の人間にしか明かしていなかったらしい。

如月は当初晴海を風弓の身代わりにと目論んでいたが、それは彼女を風弓と同じく“水の能力者”だと誤認していただけだ。

充や風弓がひた隠しにしていた晴海の特殊な能力に、気が付いていた訳ではない。

なのに、其々の分野で能力者に詳しい筈の父たちすら知り得なかった晴海の能力の詳細を、何故香也が知っている?

それに香也が去り際に教えてくれた、あの言葉は――

「……、んん…」

そのとき、部屋の奥にある寝台で休ませていた晴海が小さく声を上げた。

「姉ちゃんっ」

「晴!」

風弓と共に晴海の傍へ詰め寄ると、ゆっくりとその瞼が開いて、碧い眼がぼんやり空(くう)を見つめた。

「良かった、姉ちゃん…」

「……ふゆ、ちゃん?」

安堵する風弓の姿を不思議そうに眺めて、晴海は身を起こしながら不思議そうに眼を瞬く。

「…晴」

晴海が邸を飛び出してから、顔をまともに合わせるのはこれが初めてのため、少々ばつが悪かったが――

恐る恐るその名を呼ぶと、晴海はびくんと身を強張らせた。