亡くなったと思われていた父親と弟は生きていたが、父親は既に月虹の手に掛かって命を落としていること。

弟は月虹の能力者だが現在は拘束され、陸が彼を助けるために自ら連れ戻される道を選んだこと。

こうして冷静な頭で考えれば、晴海がどれだけつらい想いを堪えているのか解る筈だ。

だけど晴海は、こうして気丈に笑って見せてくれる。

「…ごめん。君だって色々あったのに、情けない顔ばっかり見せて」

「ううん、私なら平気。みんなが守ってくれたから」

「晴海…」

「京さんがね、賢夜に沢山話し掛けたり、手を握ってあげるといいよって言ってた。周さんたちも、いつも愛梨さんにそうしてるんだって教えてくれたの」

愛梨――賢夜と同じように眠り続ける、陸の母親。

「ずっと呼び続けてれば、絶対に届くよ。そしたら…きっと賢夜は気が付いてくれる」

少し語尾が震えていたが、晴海はまた笑ってくれた。

「そっか……うん。そうだね」

諦めるには、まだ早過ぎる。

言うことを聞かなかったなら、子供の頃のように殴ってでも張り倒してでも間違いを正してやるのが姉の役割なんだから。

賢夜も、慶夜も絶対に元に戻る――三人一緒に暁が待っている炎夏に帰るんだ。

「有難う、晴海。元気出た」

「…一人で抱え込むなって私に言ってくれたのは、夕夏じゃない」

「うん…そうだよね」