「陸様、今度はわたくしにお相手させて頂けます?」

「あら嫌ですわ、陸様はまだわたくしとのお話の最中ですわよ」

「まあ、あんまり長いお話でしたからもうお時間かと思いまして。ごめんあそばせ」

――自分が決めたことだから仕方ないとはいえ、目の前での小競り合いに陸はげんなりとして小さく溜め息を落とした。

陸の眼前には今回の見合い相手、締めて十六人全員が揃い踏みしている。

見合いを断れば春雷と他国間との折り合いが悪くなる、そう考えた陸は見合いを全て受ける代わりに相手方へいくつか条件を出すことにした。

一つ目は、見合いの席を参加者全員の合同で行うこと。

二つ目は、陸と一対一で会話する時間を一人十分以内に収めること。

三つ目は、令嬢同士での仲違いを起こさないこと。

最後に、これらを了承出来ない家からの申し出は受けないとした。

勿論こんな条件を素直に了承出来る訳はないだろうが、こちらにも時間の都合があると言えば無理矢理見合いを取り付けてきた先方も文句は言えまい。

それに、これで少しでも候補者が減ってくれればと考えたのだが、相手方も今回の見合いに必死なのか他の者への対抗心の表れなのか、条件を飲まない令嬢は誰一人いなかった。

こうして――些(いささか)か強引ながら午前中のうちに見合いを終わらせる流れは作れたものの、次々と自己主張の強い令嬢たちを相手にするのも楽ではない。

「陸様、幼い頃にわたくしを良く海の見える丘に連れて行って下さいましたわよね?」

「あー…そうだっけ…」

確かに“一人”で海を眺めに行こうとしたとき、何処かの令嬢が“断りもなく勝手について来た”ことなら“一度か二度”くらいあったかも知れない。

「お忘れですの?おいたわしい、きっとまだ以前のご記憶が完全に戻られてないのですわね」

「いや、戻ってますけど」