また、誰かが傍で何か言った気がする。

そんなことはどうだっていい。

風弓が、起きてくれない。

「やだ…やだよぉ…っふゆちゃん…」

「っいいから来るんだ!!」

すると痺れを切らしたらしい相手が怒声を上げつつ、晴海の左手首を強引に掴み上げた。

その弾みで左手首に着けていた真珠飾りの紐が切れたような感触を覚えて、晴海はびくりと顔を上げた。

「…!!」

瞬間、繋ぎ止めるものを失った真珠がばらばらと腕を滑り落ちて床に散らばってゆく。

「ぁ…、ああ…っ」

小さな頃から、ずっと大切にしていた真珠の腕輪。

昔は紐が切れてしまったときは、風弓が直してくれていた。

十年前の記憶のない自分にとって、陸との出逢いを証明してくれる唯一つのもの。


それが、こわれてしまった――


自分の中で何かが一緒に弾け飛んでしまったような感覚に襲われて、目の前が真っ白になった。





揺らぐ気宇(きう)の瓦解(がかい) 終.