今回のような事態に陥ることを、全く予測していなかった訳ではない。

炎夏で慶夜の姿を遠巻きに目にしたときも。

その後に現れた、雪乃の様子を目の当たりにしたときも。

胸中に広がる不安は募るばかりだった。

それでも、もしかしたら、きっと。

慶夜は自分たちの姿や声に、何か反応を示してくれるのではないだろうかと――淡い期待を、不安と共に抱いていた。

『誰だ、貴様らは』

あの瞬間に、悲願にも似たその期待はものの見事に打ち砕かれた。

何度呼び掛けても、自分たちの声は慶夜の心を全く揺り動かさなかった。

だとしたらもう、どうすることも出来ないではないか。

賢夜はこのまま目を覚まさず、慶夜は取り戻すどころか元に戻すことすら儘ならない。

慶夜を探し歩いていた四年の間、ずっと抱いていた“また家族四人揃って炎夏で暮らす”という願いは叶わないのだ――

毛布に顔を埋(うず)めてそんなことを考えていると、ふと扉を叩く音が響いて夕夏は顔を上げた。

「…どうぞ」

夕夏の応答を受けて開かれた扉の向こうから、晴海が顔を覗かせる。

「夕夏」

「晴海…来てくれたんだ」

晴海と顔を合わせたのは、賢夜が此処に運び込まれたとき以来だった。