いとしいこどもたちに祝福を【後編】

長髪の男――?

「姿は遠巻きにしか見えなかったけど、あれは恐らく髪色からして冬霞(とうが)の人間だよ。冬霞といえば確か、春雷とはあまり仲の良くない国だよな」

冬霞出身らしき外見の、長髪の男。

もしや、また香也が現れたのか。

「そんな、まさか」

「知らなかったのかい?もし例の男と何でもないのなら、彼女もお前に話してくれたって良さそうなものなのになぁ」

そうだ、晴海は昨日何も言っていなかった。

もし何かあったなら、晴海はいつだって話してくれたではないか。

だが――香也と面識のない筈の真都に、こんな具体的な嘘が言えるだろうか。

「僕の話を疑うなら、兄様にも訊いてみればいいじゃないか。京兄様も例の男が現れたことは知ってる筈だよ」

「…兄さんが?」

「ああ。そうだよ」

ざわり、と胸の奥で嫌な気配が蠢いた。

脳裏を過(よぎ)ったのは、思い出したくもない時計塔でのあの場面――

「お前たち、ちょっといいか」

不意に不穏な空気を遮ったのは、周の一声だった。

「叔父様」

「悪いな、真都。陸、こっちに来てくれ」