そういえば香也が病院内に現れたことを、すっかり話しそびれていた。
だが、香也は何もする気はないと言っていたし、実際にも何もせず去っていった。
改めて陸に伝えるまでのことは、何も起こらなかったのだから――
「ううん…何でも、ない」
わざわざ陸の気分を煩わせる必要もない。
「行こ」
晴海は陸の手を握り返して、少し小走りで駆け出した。
邸の壁面に列(つら)なる窓越しから、こちら側をじっと眺めていた視線には、結局最後まで気が付かなかった。
「――ふぅん。京兄様の言ってた通り、あの子は本当にあいつのなんだ…」
窓辺(べ)りに肘を着いて庭を見下ろしていた真都は、不満げに独り言を呟いた。
「何処で見付けてきたのやら…陸なんかにはあんな可愛い子、勿体ないな」
苛立った様子でかつかつと指先を窓辺りに打ち付けながら、暫し黙り込んで思案する。
そしてふと何か思い付いたように指を止めると、真都はくすりと底意地の悪い笑みを浮かべた。
「陸の奴がどれだけあの子に入れ込んでるのか知らないけど…退屈凌ぎに少し揺さぶって遊んでみるかな」
* * *
だが、香也は何もする気はないと言っていたし、実際にも何もせず去っていった。
改めて陸に伝えるまでのことは、何も起こらなかったのだから――
「ううん…何でも、ない」
わざわざ陸の気分を煩わせる必要もない。
「行こ」
晴海は陸の手を握り返して、少し小走りで駆け出した。
邸の壁面に列(つら)なる窓越しから、こちら側をじっと眺めていた視線には、結局最後まで気が付かなかった。
「――ふぅん。京兄様の言ってた通り、あの子は本当にあいつのなんだ…」
窓辺(べ)りに肘を着いて庭を見下ろしていた真都は、不満げに独り言を呟いた。
「何処で見付けてきたのやら…陸なんかにはあんな可愛い子、勿体ないな」
苛立った様子でかつかつと指先を窓辺りに打ち付けながら、暫し黙り込んで思案する。
そしてふと何か思い付いたように指を止めると、真都はくすりと底意地の悪い笑みを浮かべた。
「陸の奴がどれだけあの子に入れ込んでるのか知らないけど…退屈凌ぎに少し揺さぶって遊んでみるかな」
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