確かに香也が現れなければ、結界に抜け目があることに誰も気付かなかったかも知れない。

「ただ…月虹は今、身動きが出来ない状態だと言っていました。実際はどうなのか解らないですけど…」

「まあ…八属性の能力者のうち、半分近くを失ったからな。しかも切り札の陸をまた取り逃がした訳だし、戦力不足ってのは嘘でもねえか」

「なら、尚更今のうちに対策を考えておかないとな…今回の催しを大々的にしたのには、各国の領主との話し合いの場を作るためでもあるんだ。母さんや陸には口実になって貰って悪いけどね」

「各国の領主様……やっぱり、炎夏や薄暮からは誰も来ないんですか?」

「春雷は中立国だからね。表向きには何の確執もない薄暮やその同盟国にも、一応招待の連絡はしたんだ。けど関連国で来てるのは樹果の領主くらいかな。まあ…炎夏は時期的に無理か」

そもそも架々見や朱浜は、八ヶ国の領主が召集される会合にも殆ど現れないのだと京は言った。

「中立とはいえ、領主の年功序列では若年層の父さんが、自然な形で各国の代表を集めるにはそれなりの理由が要ったんだ。ごめんね、晴海ちゃん」

「えっ?」

唐突に謝罪の言葉を告げられ、首を傾げる。

「昨夜くらいから邸の中は慌ただしいし、陸もずっと父さんが借りっぱなしだしさ。今朝も気を遣わせちゃっただろ?」

「いえっ、そんなこと…私なら全然っ、大丈夫ですよ」

慌てて両手と首を振って見せると、風弓がちらりとこちらに視線を寄越したような気がする。

「そうかい?でも一人で此処まで来たんだろう?獅道の彼のことがなくても、今の春雷は人の出入りが多くなってるから単独行動は危ないよ」

確かに、人が多く集まる場所には危険も多い。

「京さんの言う通りだな。姉ちゃん、あんまり一人で出歩くなよ」

「うっ…うん」

こうなると結局、誰かを頼るしかない自分の身が恨めしい。