京は驚いた面持ちでじっと晴海の眼を見つめていたが、やがてその表情を崩してゆっくりと首を振った。

「…有難う、晴海ちゃん。もう大丈夫だよ」

再び笑って見せた京の掌からやっと力が抜けたのを確認して、晴海は両手を解放する。

「京さん…」

「けど参ったな。晴海ちゃんから手を握られたなんて陸に知れたら、どんな言い訳すればいいか…」

ああ、そうやって軽口を言うのはいつもの京だ。

「何だよあの野郎…人の話は聞かないわ感じ悪いわ、最悪じゃねえか」

風弓が苛立った口調で吐き捨てると、京は苦笑いを浮かべて頷いた。

「…ごめんね。彼はあんな性格の上に女好きで…何か変なことを言われたりされたりしなかったかい?」

「いえ、大丈夫で…」

「姉ちゃんの手ぇ無理矢理握った上、食事に誘ってきやがったっ…!」

風弓が怨念込めて言い放った言葉に京は「やっぱり…」と大きく溜め息をついた。

「病院に不審者が出たって聞いて来てみたらさっきの状況だったから、一瞬彼が通報されたのかと思ったよ」

「あ…いえっ、それは…」

京の言葉に吹き出しかけながら晴海が口を開くと、京は分かってる、と言って頷いた。

「うん…ほんの少しだけ、気配が残ってる。現れたのは…僕も月虹では随分と世話になった彼、だろう?」

「…はい。でも、何をするでもなく、すぐに消えてしまいました」

「そうみたいだね。こっちとしても、何だか守りに隙があることを暗に教えられたみたいで癪だな」