いとしいこどもたちに祝福を【後編】

「あの、貴方はどなたで…」

戸惑いがちにそう問うと、男は妙に畏まった一礼をして見せた。

「僕は占部(うらべ)真都。秋雨の領主を務める、占部一族の嫡男ですよ」

秋雨の、領主子息――何故そんな人間がこの春雷の、しかも病院内にいるのだろう。

「…また面倒そうなのが出て来やがった」

げんなりと溜め息をつく風弓に、真都は透かさず芝居掛かったような大袈裟な身振りでこちらに歩み寄ってきた。

「君、女の子がそんな乱暴な口の聞き方をするは良くないよ」

「なっ…ふざけんな、俺は男だ!てめえ何処に目ぇ付けてやがるっ!!」

瞬間、真都に殴り掛かりそうな勢いで風弓が激昂する。

「おや、これは失礼。君がこちらの娘さんに良く似て少女めいた顔立ちをしていたものでね」

確かに、風弓は幼い頃も良く女の子に間違われることが多かったのだが。

更に声を荒げようと口を開きかけた風弓を諌めるため、晴海は慌てて弟の腕を強く引いた。

「風弓、駄目だよ…悪気はなかったみたいなんだから」

「おやおや、名前までまるで女の子のようだね」

ああもう、火に油を注がれてしまった。

「てめっ…さっきから人が気にしてることばっかへらへら言いやがってっ…わざとか?!わざとだろ!!」

だが真都は喚き散らす風弓をものともせず、その横をするりと通り抜けたかと思うと晴海の目の前まで迫ってきた。

「え…あ、あの…」