いとしいこどもたちに祝福を【後編】

「何処かの国の誰かにも、そんな奴がいたのかもな」

香也は謡うように嘲笑うだけで、それ以上はそのことに言及しなかった。

「…晴海。俺はお前にそんな想いはさせたくない」

次いで紡がれたのは、打って変わって穏やかな声色と優しげな言葉。

「香、也…?」

「俺は、お前にそんな不安そうな顔をさせたりしない」

不意に、時計塔の最上階で香也にされたことを思い出す。

『晴海、あいつを見るのは止めろ。陸じゃなくて…俺を見ろ』

でもあの行為は自分や陸を動揺を誘うためのもので、それ以上の意味はない、筈――

「其処で何をしている!?」

突如上がった叫び声に振り向くと、遠くから数人の警備員が駆け寄ってくる姿が見えた。

「ち、もう時間切れか」

香也は小さく舌打ちをしてから、風弓の隙を突いて晴海の手をやんわりと捕らえる。

「えっ」

「またな、晴海」

「っ香也!てめえ何っ…」

軽く掌に口付けてきた香也は、風弓に気付かれる寸前に素早く身を翻す。

そして次の瞬間、香也の姿は現れたときと同じように音もなく消え去った。