いとしいこどもたちに祝福を【後編】

その声と、風に揺れる胡桃色の髪には見覚えがあった。

「貴方、は…」

「香也…!!」

風弓が目の前の男から晴海を守るように片腕を伸ばす。

「くく…使いものにならない脚で晴海を守れるつもりでいるのか、風弓」

「黙れ!姉ちゃんに近寄るな!!」

勢い良く噛み付く風弓に対し、香也は両手を上げてひらひらと振って見せる。

「安心しろよ、今日は月虹からの命令で来た訳じゃない。それに今の月虹は戦力不足で殆ど身動きが取れないからな」

「っ…そんなの信じられるかよ!」

その言葉に更に風弓は熱(いき)り立ったが、晴海はふと思い立って弟の肩に手を置いた。

「待って風弓…多分その人、本当のこと言ってる」

そう呟いた瞬間、香也の菫色の眼がすっと細められる。

同時に、風弓が戸惑いがちにこちらを振り仰いだ。

「姉ちゃん…」

「だって私たちに何かする気なら、わざわざ姿を見せたり話し掛けたりする必要ないでしょう?」

前回は何が起きたのか認識する暇(いとま)さえ与えられず、問答無用で眠らされたのだから。

「晴海は話が解るな」

何処か人を見透かしたような、惑わすような眼差しでこちらを見つめながら香也は愉しげに笑みを浮かべた。