「いい天気だなぁ。春雷は話に聞いてた通り、気候の穏やかな国なんだな」

風弓は背筋を大きく伸ばしながら、気持ち良さそうに呟いた。

そういえば、風弓が春雷に来たのは今回が初めてか。

「うん…昔住んでた場所より風が気持ちいいよね」

「秋雨はどうしても湿気が多かったからなあ」

昔、家族揃って住んでいた秋雨の国は霧の深い国で、涼しい気候だった。

「……私ね、何だか不安なの」

「不安?」

「陸が何だか遠くに感じちゃって…月虹から帰って来てから、まだあんまり話せてないし」

「そういえばあいつ、記憶が戻ったしな。やっぱ前と印象変わった?」

がらりと劇的な変化があった訳ではなく、何となく違和感を感じる、といった程度ではあるが。

春雷に戻ってきたばかりの、まだ記憶が戻っていなかった頃からその兆候は確かにあった。

「少し、だけ…勿論、今が陸本来の姿なんだって解ってるよ。だから本当の陸のことが知りたくて、陸と色んな話をしたいなって思ってる」

願わくは炎夏で暮らしていた頃のように――とはいえ、今はあのときとは全く状況が異なる。

「……けど、今はそんな我儘言ってられないもの」

「そのうち落ち着けば時間くらい取れるさ。元気出せよ、姉ちゃん」

忙しいのは今のうち、だけ――けれど本当にそうだろうか。

「それに…本当に私なんかが陸の傍にいていいのかな」