「じゃあね、賢夜…また来るから」

去り際に賢夜へ声を掛け、晴海は病室を後にした。

――瞬間、少し早足で廊下を抜けて、階段を駆け降りる。

医師や看護師に見付かったら叱られそうだが、幸い誰にも遭遇せずに風弓の病室までたどり着くことが出来た。

寝台の上で蹲るように俯いていた風弓は、勢い良く入って来た晴海を見て驚いたように目を丸くした。

「…姉ちゃん?」

肩で息をしながら、後ろ手にそろそろと引き扉を閉める。

「どうかしたのか?」

「あ…なんでも、ないの…っびっくりさせちゃって、ごめん、ね」

「いや、いいけど…姉ちゃん、今日は陸と一緒じゃないのか」

「うん…陸は、ちょっと忙しくて。あのね、それより風弓……お散歩、しない?」

風弓の問いに短く答えて、別の話題を切り出す。

そんな晴海に、風弓はすぐ頷いた。

「…ああ、ちょうどずっと部屋の中にいて気が滅入ってたとこなんだ」



――病院の中庭は、霊奈の邸程ではないがなかなか広くて緑が多い。

今日は天気が良く、同じように散歩をしている入院患者や付添人の姿が散見する。

風弓を病室に備え付けてあった車椅子に乗せて、晴海は石畳の上をゆっくり進んだ。