しかしチラシをあれだけ配って、来たのがロン一匹とは…。

「ロン君じゃあ不満な訳じゃないですけど…何か有力な情報が欲しいですねぇ」

椎奈がジャックの顔を見上げる。

「何…急いでいる訳じゃない…椎奈がこれだけの事をしてくれているんだ。後は気長に待つさ」

落胆した様子もなく、ジャックは落ち着いた表情で言った。

前から思っていたのだが、ジャックは感情の起伏に乏しい。

普通は記憶喪失というと、自分の素性の事とか、それらを全て失った不安とかで、もう少し焦りを見せるものなのではないだろうか。

そういった感情を微塵も見せないとは。

一体彼は、どういう人生を送ってきたのだろう。

椎奈は密かにそんな事を考えていた。