本当に僕は綾といっしょにいるのだろうか。


もはや、魂の抜け殻と一緒なのではないだろうか。



ふとそんなことを思ってしまう自分に喝を入れるため頬を叩く。



俺はなんてバカなんだろう。



ここにいるのは紛れもなく綾じゃないか。


彼女の手を握る。


握り返すことはない。


でもこの手は生きている柔らかい感触とぬくもりがした。


来た当初とは違い、輸血されたり、保温の為電気毛布をかけたりしていたからか、来た当初の色白さと、手の冷たさはなかった。


顔色も今にも目を開けてくれそうなほどに見えた。



そして何よりも、このぬくもり。デートの時の感触と変わらない。



届きそうなのに、目を覚ましそうなのに、彼女は遠いところにいる。


決して僕には手が届かない場所に。こんなにも君が好きだというのに。



涙が止まらなかった。



僕は声を押し殺しながら泣いた。



長い長い夜が更けていった。