ビンタを終えた後も、お嬢は俺の頬に触れたままだった。

その癖、俺と視線は合わせない。

…二人きりで教室にいた時と同じように、お互いに無言。

セミがやかましく鳴く声だけが、誰もいない道路にこだましている。

と。

「こないだの事…」

お嬢がポツリと言った。

「気にしなくていいからね…?」

「え…」

こないだの事って、どれだろう。

みんなに誤解受けた事なのか、羽山と宗方の前でお嬢が言った事をばらしてしまった事なのか、俺が凶暴女って言った事なのか、それとも喧嘩そのものの事なのか。

思い当たる節はいっぱいある。

でも…どれでもよかったし、どうでもよかった。

気にしなくていい、とお嬢は言った。

こいつがいい、って言うなら、いいんだろう。

「わかった」

俺が頷くと、お嬢ははにかんだように笑った。

「半分持ってあげる」

照れ隠しに俺の隣に来たお嬢は、袋を半分持ってくれる。

「うわ、重た…早く帰ろ」

「ああ」