沈黙は続く。

だが、突然。

「あのさあ」

背後から、お嬢の声が聞こえた。

「何だよ?」

「……」

お嬢は躊躇いがちに。

「いつも…ビンタとかしてごめんね?痛いよね?」

そんな事を言い始めた。

…おい、おいおいおい。

急にそんなしおらしい事言うなよ。

俺は変に緊張してしまう。

今まで何度平手打ちしたって謝った事すらないお前が、何だってこんな時に謝ったりするんだよ?

こんな時にデレモードになるのって反則だぞっ!

俺は必死に冷静になろうと努める。

じゃないと…じゃないと…。

さっき不覚にも、ちょっとお嬢って可愛いかも、とか思っちまったじゃねえかっ。

「べ、別に痛くねえよ、お前のビンタなんて」

ややカミながら答える。

「女の細腕で叩かれたからって、どーって事ねえよ。だから…」

やべ…俺、顔赤いかも。

「ビンタしたけりゃこれからもしろよ。気にすんな」

俺が言うと。

「…うん」

はにかんだような気配と共に、お嬢は返事した。