あいつは自分のせいで母親が死んだから陸上をやめたと言っていた。

もう母親の前で走れないからやめた、と。


でもそれは、本当に母親のためになるのか??

あいつの母親は、きっと喜ばない、そう俺は思った。

あいつの母親は、もっとあいつに走っていて欲しいと思ってるんじゃないのかなって俺は思った。

自分が死んだことによってあいつが陸上をやめたなんて知ったら、あいつの母親は悲しむよな。


俺は、「おまえの母親のためにも、陸上やめんなよ、走り続けて、母親の記録を超えてやれよ。そんなおまえが俺は好きだ」なんて、かっこいいこと言えない。

だから、「俺はおまえの走ってるときの笑顔が好きだ」って言っといた。


おれの思いが伝わって、あいつがまた陸上界に戻ってきてほしい。

そしていつか、あいつがあいつの母親の世界新記録を超えるところが見たい。


あの笑顔を、また見せてほしい。


俺は素直に、そう思った。