「そんなことがあったのか、お前の過去には」


少しの間の沈黙を最初に破ったのは、裕斗先輩の方だった。

あたしが話している間、何もいわずに聞いてくれた裕斗先輩。

やっぱり、裕斗先輩は優しい人だ。


「それで、おまえはもう走らないわけ??」

「えっ……??」


びっくりした。

なんか、意外な言葉だったから。


でもあたしは、答えられなかった。

「本当は、まだ走りたいんだろ。
今日のおまえのリレーでの走り見てわかったよ」


裕斗先輩はこう続けた。

「走っているときのおまえの瞳。
前だけをまっすぐ見てて、ほんとに、綺麗だった」

あたしは、そんな瞳をしてたんだ……。


「それから……」

裕斗先輩は少し言いづらそうに、こう言った。


「俺は好きだけどな、おまえの走ってるときの笑顔」


少し頬を赤らめてそう言う裕斗先輩が、ちょっと可愛かった。