「適当に座って」
カシャンと、小さな音を立て白い靴箱の上に無造作に置かれた車の鍵が、照明に照らされキラキラと光る。
先に部屋へと入った光の大きな背中へと視線を移した。
カチャカチャと聞こえる食器の音さえ、胸の鼓動に拍車をかけてくる。
「はい、コーヒー」
ゆらゆらと湯気のあがったカップを手渡され、両手で受け取った。
コーヒーを口に運ぶと、フワッと漂った香りに暴れていた心が少し静まったのがわかる。
「物……少ないね」
やっと落ち着いたあたしが、部屋を見渡し思った事。
必要最低限の物しか置かれていない部屋は、何だか少し寂しい気がした。
「あぁ」
相槌を打って、同じように部屋を見回す光。
あ……もしかして、あんまり聞かれたくない事だったかな。
そう思ったあたしは、別の話をした。
別に聞いたら答えてくれる事かもしれない。
だけど、どうしてかな。
光の事を詮索してはいけない気がした。
たまに見せる哀しい……瞳に気付いているからかもしれない。
生きていれば言いたくない過去や、現実が誰にだってある。
気にならない、そう言えば嘘になる。
だけど、あれこれ詮索して何が得られると言うの?
自分の納得のいく答えが出てくるとは限らない。
それならいっそ、何も知らない方がいいのかもしれない。
ううん、違う。
光の為、そんな事を思いながら、実は自分自身を守る為なんだ。
聞かれたくないのは、あたし。
あたしのムシのいい思惑。