離れた唇に、冷たい風が突き刺さる。


まだ冬なんじゃないか、そう思わせるくらいに。

それとは裏腹に、抱きしめられた体は温かくて。


その温度差に戸惑ってしまう。



「車……戻ろっか」


耳元で囁く声に素直に頷いた。


車内はとても静かで、エンジン音が心地いい。


暗黙の了解。


とは、この事を言うんだな。

そう初めて思った。


車は、あたしの知らない道を走る。

それを“どこ?”なんて聞かない。


わかってるから。

この後、どこへ向かい。

どうなるかなんて……言葉にしなくてもわかる。