「おい着いたぞ、降りろ」
そう言われ、ゆっくりと車から足を降ろすと、
虎沢の本家ほどではないけど大きな中庭が目に飛び込んできた。
相変わらず銃を向けられたまま、中へと進んでいく。
「龍斗さん、虎沢の娘連れてきましたよ…」
長い廊下の再奥にある大きな襖の前で立ち止まる。
襖を小さく開けて、銃と顎で「入れ」と指図される。
足を中に踏み入れキッと前を睨むと、広い部屋のまた奥にそいつは座ってた。
「あんたが……影山龍斗…」
影山はふっと笑うと立ち上がり、こっちに向かって歩いてきた。
「会いたかったよ……疾風…」
顎をくいっと持ち上げられ、顔が近付いてくる。
キスをされそうなくらい近くになった瞬間に、ペッと顔に向かって唾を吐いた。
「こんな真似して何が目的?」
影山は無表情のまま顔についた唾を手のひらで拭い、その手のひらをべろりと舐めた。
薄い一重まぶたの鋭い目に、真っ白な肌。
その肌が一層引き立たせている、顔の黒い薔薇の刺青が印象的だった。
髪は真っ白に脱色してあり、一見私ともそんなに変わらないような年にも見えるし、すごく上の年だと言われてもそう見えるような、不思議な風貌だ。
こんな若い奴が一代でここまで影山を大きくしたなんて、少し驚いた。
「気が強い女は好きだよ……」
まるでこっちの話を聞いてない。
薬でもやってるのだろうか。
それだったらこの隙にコイツを締めて出て行けば一件落着だ。
私はぼーっとこちらを突っ立って見ているだけの影山に、渾身の蹴りをお見舞いしてやろうと足を振り上げた。