「はあぁ…」
最近は常に影山の存在を警戒して、ほぼ全くと言って良いほど一人の時間がない。
油断は禁物だけど、さすがにストレスが溜まる。
学校が終わり、わざとなくらい大きなため息を吐きながら乱暴に靴を床に落とす。
校門から100mほど歩いた所に、いつも太郎が車をつけておいてくれる。
この100mが、今の私の唯一外での1人の時間。
わざとゆっくりと歩きながら、帰りたくないななんて考えてしまう。
校門をでて、少し歩いた所で足を止めた。
…誰かが付いて来てる…気がする。
異変に気づいて直ぐに足を早めた。
すると後ろから走ってくる足音が聞こえる。
曲がり角を曲がって直ぐに向き直り、足音が近くなった瞬間に、鞄を振り上げ、渾身の力でぶん殴った。
同じ様に角を曲がろうとした男は、走っていた勢いも手伝って鞄がクリティカルヒットした。
バタンと派手に倒れた相手は、見た目は完全にヤクザだけど、見たことのない男だった。
「…あんた……どこの組の奴よ」
胸ぐらを掴みながら問うと、唸っていた男はにやっと笑った。
「……遅い…」
カチャリ、と後頭部のあたりで音がした。
頭に当てられたひんやりとした鉄の硬さで、それが銃だと気付く。
「疾風ちゃん学校お疲れ様。ちょっとつきあってもらえる?」
男の胸ぐらを放し、ゆっくりと後ろを振り向くと、今度は額に銃口を向けられた。
「…影山…聞いてた通り汚い真似してくれるじゃん…」
吐き捨てるように呟くと、ぐっと銃口を押し付けられる。
「…ふん、あんたは聞いてた通り肝が座ってて度胸のあるいい女だ…………気が変わった。この場で殺してやるつもりだったけど、龍斗さんの言うとおり連れて帰るか。」
影山龍斗。私も名前だけは聞いたことがある影山のトップ。
「私に何の用?組のことには首突っ込んだこと無いんだけど」
「さぁ?龍斗さんが何でお前にこだわるのかは俺らも知らねーよ。おら、さっさと乗れ。」
銃をつきつけられたまま背中を蹴られ、いつの間にか隣に付けられていた大きな車に押し込まれた。
あと60mも走れば、太郎がいたのに…
だけど今更後悔しても遅い。
丁度太郎の車から、こっち側は建物の死角になっていて見えない。
私を乗せた車は、ゆっくりと影山組の本家に向かって走り出した。