結局いろいろと聞けず終いのまま夜になってしまい、私は布団に潜り込んだ。
太郎でさえ10歳の時にお父さんが突然連れてきたのだ。
なぜ連れてきたのかは知らないけど。
そのとき私はまだ赤ん坊だったから記憶はない
なんかこうやって考えると、私何にも知らないんだなと痛感する。
なんだか急にいろいろなことが気になって気になって、とうとう私は布団からまた出てきて太郎の部屋に向かった。
「…太郎、起きてる?」
部屋の前から小さく声をかけると、ゆっくりと襖が開いた。
「どどどうしたんすか疾風さん!こんな夜中に…もう寝ないと明日また寝坊しますよ。」
注意しつつもにっこりと笑ったいつもの太郎の笑顔に癒される。
「ちょっと、太郎に聞きたいことがあって」
「?…何ですか?答えられることなら全部答えますよ。」
「…うん」
やっぱり、太郎は私を甘やかしすぎるみたいだ。
この調子だと組織の知っちゃいけない情報までいつか漏らされてしまいそうだ。
「あのね、前に太郎は10のときにうちにきたって言ってたでしょ?」
「はい、そうですね」
「どうして…うちに来たの?」
太郎はうーん、と困ったような笑顔の後に、「答えられることは答えるって言っちゃいましたもんね。」と呟くと、姿勢を正した。
「いいですか、疾風さん。これから言うことはいい意味でも悪い意味でも、疾風さんには全く関係のないことですから、一切疾風さんは気にしないで下さいね。」
「…うん、わかったよ」
虎沢に来たのにはみんな理由があって、みんなその理由は様々だけど、どれも生半可なものではない。
みんな様々な覚悟を決めて、虎沢の仲間になる。
私の返事を聞いて太郎はうん、と小さく頷いた。
「俺は…元々虎沢家の親戚の息子でした。」
太郎は私がくる前まで読んでいた本にしおりを入れてぱたんと閉じた。
「それが、俺の両親ひどい奴らで。毎晩のように親父は飲んだくれ、お袋は俺に暴力振るうわで、まぁ厄介な家庭だったんです。」
そこまで聞いて、私はなんだか太郎のことは全部知っている気がしていた自分が急に情けなくなってしまった。
「それである日、金が無くなったって虎沢の親戚を良いことに親父が虎沢の本家に金を借りたんです。でも返せなくて、親父もお袋も…殺されました。」
「……」
虎沢の組織内での抗争は私の知らないところで毎日のように起こっている。
そして、殺し殺され、家でよく見る幹部の人も入れ替わる。
でも私はどこかでそれを自分は関係ないと線を引いていた気がする。
でも、太郎の話を聞いていて、自分はどうしようもなく虎沢の中心に近いところにいるんだと実感する。
「虎沢の組織に……両親殺されて、恨んでないの…?」
太郎だから、こんなことが聞ける。
太郎がいつもの笑顔で答える。
「俺は正直親を恨んでました。殺してくれて感謝、とまではいかないですけど……。正直最初は虎沢を憎いと思っていた時期もありましたよ。でも、親父さんも組のみんなもまだ餓鬼だった俺に良くしてくれたし、何より親父さんに疾風さんの世話役を任されたことが嬉しくてたまらなかったんです。」
「え?どうして?」
私は小さい頃から生意気だった記憶しかない。太郎にはたくさん苦労させた気がする。
「お前は虎沢の家族だって言ってもらえてる気がして…疾風さんの世話は…まぁ大変でしたけど、今ではこんなに立派になられて、俺は幸せ者です。」
やっぱり世話は大変だったらしいけれど、太郎がそれで満足ならまぁいい。
なんだか、太郎からちゃんと話を聞けて良かった。
「うん。…ありがとうね、太郎。」
今夜は久しぶりにぐっすり眠れそうだ。

