…?
掴んだはずの腕が無い。
あれ?
なにが起こったの?
また肩を捕まれているけど、今度は何だか、支えられて包まれてる感じと言うか、すっぽり腕の中に入っている感じだ。
目の前には、四つん這いで腕だけ逆方向にひねりあげられて唸っているさっきの男。
あれ、いつから私こんなに動作早くなったの?って一瞬思ってしまった。
頭上から響いた声で、なにが起こったかすぐに把握できた。
「世話かけさせんなよ、お嬢さん。」
「大和…」
ひきつった顔で見上げると、やっぱりあの仏頂面があった。
大和は片腕で私を抱き、もう片方の手で男の腕ひねりあげてた。
あの一瞬でどうやったんだよ…
大和は唸っている男の腕をぱっと放して、しゃがみこんで男の耳元で何か囁いた。
すると顔を真っ青にして男は走って行って、戸惑いながら後の二人も逃げ出した。
「…なんて言ったの」
「さぁな」
そしてぐるりとこちらにむき直して、顔をぬっと近づけてきた。
「おめーなんで今日歩いてきた」
「…いいでしょたまには。」
お腹が苦しくてちょっと運動しようと思いましたとは、ちょっと言いづらくてつい意地を張ってしまった。
「あのな…」
胸ぐらを掴まれ、さらに顔の距離が縮まる。
「お前、自分が虎沢の子だってことをもっと自覚しろよ…物騒だけどな、誰がどこでお前の首狙ってるかわかんねーんだよ」
そこまで言って、ぱっと手を離す。
息苦しさから解放され、はぁとため息をついた。
今の日本でそんなことそうそう無いだろうということが、裏の世界では易々と起こり得る。
そんなこと、わかってる。
「わかってるよ…」
急にさっきまで鼻歌なんか歌っちゃってた自分があまりに能天気で恥ずかしくなるのと同時に、なんだか悲しくなってしまった。
大和はそれに気づいてか気づかずか、私の頭をぽんぽんと撫でた。
「まぁ、あそこまで手が出なかったことは評価してやる。」

