「すみませんね…こうでもしないと起きてもらえないようなんで…」
耳元で低く囁かれる声は、セリフとは裏腹にしびれるほど甘く、寝起きの頭には刺激が強すぎる。
「起きてください疾風さん…もう昼ですよ」
全く色気のない言葉なのに、吐息混じりに囁かれるだけで頭がくらくらする。
「わ…わかった…!起きるからぁ…っ!」
そう言うと精一杯の力で押してもびくともしなかった体がぱっと離れて、油断した隙にさっと布団をはぎ取られた。
「言いましたね。さぁ早く起きてください。」
寝ぼけ眼を擦りながらよく見ると、そのみたことないはずの男は昨日会ったばかりの菊池大和だ。
「なっ…」
「言っておくが、何回呼びかけても叩いても殴っても起きなかったお前が悪いからな。」
「な、殴ったの!?ひどい!!」
「腹をな。お前どんな腹筋してんだよ…寝てて力入ってねーはずなのにあんな固いとか…」
「うっさいな!!てかなんだおめーは!!朝っぱら…いや昼から!!別に土日なんだから寝かせてくれてもいいだろーが!!」
「あのな…早寝早起きは習慣なんだよ!!土日だからってぐだぐだ昼まで寝てる奴が平日朝七時に起きれるわけねーだろ!!!」
「…チッ…てか太郎はどこにいんの…何にしろ起こす係は太郎でしょ…」
もっともすぎる意見で論破されてしまい、とりあえず話題を変える。
「それだがな、これからお前の世話のほとんどは俺がみる。太郎さんは飯と送り迎えくらいだな…」
「な、へ!?き、聞いてないし!!なにそれ!!!」
「だって言ってねーし。言っとくが、どれもこれも親父さんの命令だ。大人しく従っといた方が身のためだな」
「くっ…くそ親父め…」
「まぁ安心しろ。親父さんの娘だ…俺も手荒な真似はしねぇよ。ただ親父さんに言いつけられた、お前に早寝早起きと女らしい振る舞いを叩き込むことだけには…協力してもらうがな。」
目がギラリと光り、私の背筋にビリリと寒気が走る。
な、なになに…怖いんだけど…
「うぅ…たすけて太郎ぅ…」

