私に続いて太郎、大和と入ってくる。
お父さんと向き合うように座った私の隣に太郎が座り、目の前のお父さんの隣に大和が座る。
「すまねぇな、紹介すんのが遅れたよ。こいつ、菊池大和っつー奴だ。」
「うん、聞いてるよ。」
「そいでよ、お前、話は聞いてんぞ…最近遅刻が多いらしいじゃねぇか。」
「…」
こんなことをお父さんに告げ口するのは太郎くらいしかいない。
ギロリと静かに太郎を睨むと、静かに視線をそらされた。
「まぁお前の寝起きがわりーのは承知の上だ。だがな、それに重ねて、お前にはやっぱり女っ気が無さすぎるんじゃーねーのか?」
「はぁ…」
「今日だってよぉ、17の女にもなって顔に傷つけてくるたぁなんて醜態だよ。虎沢の女はいつでもしとやかに慎ましくあるべきなんだよ…わかるか?」
「おじいちゃんみたいなこと言わないでよ…」
「お前もいい年なんだからよぉ、男の1人や2人、いてもおかしくねーだろ。いつかお前の婿になる奴が、虎沢の名前を引き継ぐ候補にもなりうるんだからよ。」
(誰のせいでまともに恋愛もできないと思ってんだよ…)
心の中でチッと舌打ちをしつつも
静かに話を聞く。
「そこでだ。お前の世話係を1人増やす事にした。」
そこではじめて「えっ」と驚く。
「えっ、ちょっと待ってなんで!?太郎で十分だし!てかやだ!太郎以外認めないんだから!!」
「はっ疾風さん…!!」
うるうると涙ぐむ太郎の背中に隠れて、やだやだと抵抗する。
私は太郎に、物心ついたときからずっと世話をしてもらっていた。
もはや親とも兄弟とも言い難い、深い深い絆がある。
「俺も太郎を信頼してねー訳じゃねぇ。むしろ感謝してる…太郎が疾風をここまで育てたも同然だ。だがな…ちと太郎じゃお前を甘やかしすぎる。手厳しいのも一匹連れといても損はねーだろ。」
理由は理解できるけれど、体が拒否する。
知らない奴に世話を焼かれるなんてごめんだ。
まだ抵抗していると、びりびりとその場がしびれるほどドスの利いた声が響いた。
「いい加減にしねぇか疾風…ここじゃあ俺の言うことは絶対なんだよ…わかってるだろ?えぇ?」
「…うぅ」
学校であんなに恐れられている私でも、お父さんの前ではただの子供だ。
「…わかりました。」
しおしおと返事をすると、お父さんはにこりと笑いながら「いい子だ」と呟いた。
「それでな、お前の新しい世話係が、この大和だ。」
「疾風さんが不自由なく生活を送れるようお勤め致します。どうぞよろしく。」
「……」
なんとなく予想はついていたけれど、やっぱりこいつか…。
まぁお父さんがいる手前、シカトするわけにはいかない。
「……よろしく…」

