バース(アイシテルside伸也)


わかっていた。



亜美の気持ちが離れてしまっていたことは……



けど、この間の亜美の態度に少しだけ期待をしてしまっていたんだな。



俺を抱き締めてくれた亜美の温もりが、まだ俺を求めてくれていると勘違いしてしまった。



毎日、毎日、亜美のことばかりを考えているせいか、亜美の幻覚を見ることがある。



今だって、亜美が目の前で蹲っている幻覚が……



触れようとすると消えちまうんだけどな。



マンションの前を出た道で、亜美が蹲り、泣き崩れていることなんてあり得ないとわかっていても、俺はその幻覚に近づいてしまう。



俺の幻覚の中の亜美はいつだって笑ってはいない。



「亜美」



無意識に声をかけてしまう俺。



「伸也さん」


と顔を上げて、幻覚の亜美が俺の名を呼ぶ。



これは現実なのか?