「離せ」
……と言ってみたものの、そう言われて離すはずなんてないよな。
「伸也君、大事な彼女を殺したくないなら、僕に逆らわないこと」
従うしかねぇのかよ。
俺は体の力を抜き、その場で足を止めた。
すると、桐藤が俺の目の前で拳を振り上げる。
殴られるのはかまわねぇ。
ただ……
亜美を助け出す方法を考えなければ。
こんなちっぽけな俺の命をかければ、亜美のことを助けてやれるかな?
なぁ、康さん。
俺の命なんかじゃ、役に立たないかな?
こんな時なのに、俺の頭の中には康さんが思い浮かぶ。
自分の命をかけてレイカを守りたかった……
いやっ、守り抜いた康さん。
今やっとわかったよ。
側にいれなくてもいい。
この手で抱きしめられなくてもいい。
ただ、笑ってほしいんだ。
笑顔を見たいだけなんだよな。
そうだろ?
康さん。


