夏月一会


その時、強い風が私達の間を吹きぬけた。

そのせいで目を細めてしまって、その時の凪の表情が見えなかった。



「今日は風が強いね」

めくれてしまったスケッチブックのページを戻しながら、凪が言った。


「そうね。でも、気持ちいい……ここ、空気が綺麗だから。それに涼しいし。東京とは大違い」



東京は本当に暑い。

空気は汚れてるし、高層ビルが多いから風も通らなくて、いわゆるヒートアイランド現象で夏は暑くなるだけだ。



「麗海さんは、夏嫌いなの?」


「あんまり好きじゃないな。秋生まれだからかな。秋が一番好きなの」


「へぇ。誕生日いつ?」


「十月一日。凪君は?」

こんな話題は初めての気がする。

今まで何だかんだ言って色んな話をしていても、私達はお互いの基礎的なことは何も知らなかったということだ。


「僕は八月三十一日。ギリギリ夏生まれ」


「あ、じゃあもうすぐなんだ。…三十一日かぁ。その日ってさ、あんまり人に祝ってもらえないんじゃない?」


「そうだね。夏休みだし、それも最後の日だから、皆宿題に追われていつも、夏休みボケが抜けてきた頃に思い出されてたな」


「あははっ。やっぱり」

私達は、笑い合った。

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