パーヴェルと述べてきたジェットだが、ユーリとしてトラメの森に留まっていた為に、エルリオンはユーリと呼んでいた。スピカとの関係があったのもこの頃だった。エルリオンはユーリがかつてのパーヴェルであることを知っていた。しかし、口にすることをはばかった。
知ったところで、どうしようというのか。
カーネリアンには、パーヴェルとユーリの姿が違う為めわからなかった。
エプサイランの丘に、カーネリアンはパーヴェルに連れてきてもらった事があった。オニキス皇帝の初子のオリビンに合わせる為である。
オリビンとカーネリアンは打ち解け、互いに行き交う中になると、パーヴェルは姿を消した。
ザインの城にカーネリアンは忍び込み、オリビンの看病をした。必死にインカローズのローザに医学を学んだ。そして、ヘマタイトという劇薬をオリビンに届けつづけた。オリビンは少しずつ薬を隠すと、致死量を服用しようとしたため、カーネリアンは薬を飲むのを見届けた。
オリビンが1度自害しようとしたのは何故か、カーネリアンは訊くことはできないでいたのだが、秘密の門を衛門番が教えてくれた。
「オリビンは、少し、自分の事を厄介者だと思っていて、城中のみんなにあんまり自分の話題を隠されいて、自分は死んだ方が楽だと思ったらしい。全くそんな事はないんだけどね。」
キースという赤メノウの門番は言った。
「オニキス皇帝の接し方が悪いのではないか。責めるような事を言ったのか。」
カーネリアンが尋ねると、キースは肩をすくめた。
「ただ、ジェットはいつもオニキスがオリビンを煙かたがってるような言い方をして、会わせないんだ。オニキスの激務はジェットのせいだが、まるで暇があるのに会わないかのように言ったそうだ。オリビンから聞いた話だから、オリビンの思い込みかもしれないないけど、自分が生きてる事がこのザイン帝国の為にならないと言っていた。」
キースはため息をついた。
「しかし、そんな事で自殺なんか。」
カーネリアンは訝しげだった。
「なんでも、自分が生きてることで、ザイン帝国の弱みが出来てしまうとか。」
「俺は、メーム王国とザイン帝国の和解を目指すんだ。彼は死ぬ必要はない。」
カーネリアン王子の言葉にルフト族も歓んだ。
「カーネリアンが早く王国を継ぐといいな。」
キースが笑顔を見せて、カーネリアンの頭を撫でた。
「弱みだなんて。」
一緒についてきた青メノウのジルが嘆いた。
「ジェットの教育が毒して行くようだ。」
キースは囁いた。
彼らは、魔術を使う事ができた。
天気を操るのだ。はるか昔にカードの同士として、世界を救った同胞である。