昼間のトラメの森は他のどんな森より美しく、神聖さを湛えていた。太陽は緑色をして森を照らした。陽が上り夜を忘れる木漏れ日には、イセルという水の精が力を及ぼしている。
ジェットが力を及ぼすのは、陽が沈んだ後だった。ロジン元大尉はその場の岩に座わり、夜を待った。
叫び声をあげた鳥が梢を飛んだ。

やがて陽がくれると、森は暗黒の王国を築き上げた。風が強く吹き、森の中へ吸い込むかのようだった。大きな塊がロジンの方へ近づいた。
「私は、この森のジェットになる男だ!ジェットよ、姿を現せ!」
ロジンがそう叫ぶと、笑い声がした。
「我が名を汚すのは、誰か。」
低いがなり声がロジンを脅した。
「レーシュの国から来た、ロジンだ。その国のオニキス軍の大尉だったが、追放された。私はお前にレーシュの国をやるつもりだ。ここよりもずっと大きな森があそこにはある。私にトラメの森をくれるなら、レーシュ城の警備の手薄な場所を教えよう。」
ロジンがそう持ち掛けると、ジェットは少し考えてから、頷いた。
ロジンはレーシュ城までジェットを案内すると大きな檻にジェットを導き、捕らえた。
オニキス軍で、ロジンが提案していた計画だった。ジェットはトラメの森王の証しであり、黒エルフ、ストレーグ、ゴブリン、など様々な生き物がなっていた。ロジンが捕まえたジェットはトロールで、力はあるが騙されやすい性格であることをロジンは掴んでいたのだ。
晴れてロジンは返り咲き、大尉から昇格し大佐になった。
オニキス軍のカルセドニー家への忠誠が薄れ、
レーシュ城のオニキス軍の赤メノウ軍だけを連れて、オニキス軍は黒エルフや真東にあったモーニッシュ国の緑メノウ族を帝国の一員に巻き込みながら、モーニッシュ国の真東にザイン帝国を築き上げた。

レーシュ城は壊され、残された民は昔ながらのフォト・グレイシャスの家に住み替える事になった。真南に大きな森があるため、そこへ民族は移動した。
さらに、オニキス皇帝は自らの民をルフト族と呼んだ。身軽な空気のような民であるという意味がある。
オブシデアン王が治める国は、メーム王国とし
ルクス族とした。フォト【光】の名残である。
ルクス族は、赤メノウ軍がいなくなり、青メノウが残された。オニキス皇帝に見限られたのだ。
メノウには赤、青、緑、とあるが、メノウには生まれながら軍隊として働く定めがあった。
フォト・グレイシャスとフォト・ニンフは
生まれながらに王族として働くさだめがあった。王族に生まれたフォト・グレイシャスは
天然石の名前が付けられ、名乗る事ができる。
オニキスも、フォト・グレイシャス族である。
フローラル族は、花の家を持つが、天然石の名前自体を名乗る事は出来ないが、天然石の生まれを名乗る事ができる。いわゆる、出生した家柄が、どこなのかを名乗る事ができるのだ。
名字ほどの重要性はないが、決闘の時などには頻繁に使われる。
例えば、カーネリアン・カルセドニーの親友であるロジク中尉は、ロード・ナイトのロジクと
名乗る。彼は、トラメの森の出身のフローラル族である。トラメの森に住むフローラル族は、
黒エルフやジェットに交わることなく、また格闘にも長けていた。
トラメの森には、イセルという水の精が住んでいた。古に竜王の背中に乗り、働いた猛者だ。
ジェットであってもイセルにはかなわかった。
ただ、イセルは争いが嫌いであり、戦争を好むオブシデアン王は避けていた。オブシデアン王はイセルの存在すら知らなかっただろう。
しかし、彼の息子カーネリアン王子は、ロード・ナイトのロジクにトラメの国を案内され、イセルに出会っていた。

イセルは髪が長く、水のように髪は光り溶けていた。
荘厳な姿をしていて霊的な力を感じさせた。
野心家なオブシデアン王なら、イセルを使って王国を更に拡大し帝国を築いただろう。
しかし、カーネリアン王子は1人の友人として扱った。妙な野心や我欲がないからである。
イセルはカーネリアンを呑気な楽観主義者だと思ったが、彼は争いを避けるため、受け入れた。
ロード・ナイトのロジクはイセルの家の前に立ち、ロジンさながら叫んだ。
「トラメの森王国の真の王者よ!私だ!」
イセルは笑いながら家から出てきた。
「ロジク中尉、今日は王子様をお連れですか。」
含み笑いをしながらイセルはカーネリアンを連れたロジクに言った。
「残念ながらね、お姫様じゃないんだ。」
ロジクは腕を組みながら、言った。
「変なやつ。」
カーネリアンは言って笑った。
「この間は申し訳なかった、ロジン大尉がトラメの森を騒がせたようで。」
と、カーネリアンは続けた。
「あのトロールですがね、気はいいやつでしたが、どうにも頭には向いていないようでした。」
イセルは目を伏せて言った。
「ロジン大尉はお口が上手いようですね。」
とイセルは続けた。
「まぁ、俺の妹にも上手い話を気に入られて、それが原因で首になるというマヌケなところもあるんですけどね。」
カーネリアンはロジクをちらちら見ながら言い、ロジクを困らせた。
「えっ。えっとまぁロジンも少々気を引き締めてもらいたいものですが、どうしようね。お嬢さんと結婚させたらいいんじゃないかな。」
カーネリアンは笑いなから、「俺もそう思うぜ。」と言った。
「年が離れすぎじゃないですか。」
イセルは笑った。