「手当て……終わりました」
そう言って私は救急箱の蓋をパタン、と閉めた。キョトンとした顔をする彼に「まだ何か?」と問いかけるとにっこり笑って「手、怪我しちゃったんで玄関から帰りたいんですけど。丁度、家の鍵持ってますし」と私の部屋の中から見える玄関を指差す。
何、言っちゃってんの、この人。入れるわけないじゃん、女の一人暮らしの部屋に易易と入れると思わないでよね!
「また上から帰ればいいんじゃないですか」
そう言って、今度は私がうちのベランダと彼の家のベランダを仕切る敷居の上を指差した。
彼は頬をブゥ、と膨らませると、一言「鬼……」という。「なんとでも」と返した私。
そんな私の地雷を軽々と踏む彼は言う。
「やっぱり可愛くない。お姉さん、彼氏いないでしょ」



