にゃんこ男子は鉄壁を崩す



「由比子さんてさ、俺のこと嫌い?」

「好きとか嫌いとかじゃなくて取引先の営業の人。それ以上でもそれ以下でもありませんよ? それよりも! 私のアドレスと番号GETしたんだからなんかありますよね?」


 一応、取り繕った笑顔を彼に見せたけど彼は「え、何スか」と緊張気味に警戒して聞く。彼は営業マンの顔に戻った。


「勿論! さっきの手帳の委託販売の掛率下げてもらおうかな。75%だったけど70%! どう?」
(※委託販売:売れた分だけ仕入れすること。 ※掛率 売価のうちその掛率の分を問屋に支払う。例えば75%の掛率だったら25%が由比子たちの利益)


「ええ! マジすか! そ、それはちょっと~」

「……番号とアドレス今すぐ消去して」

「~~~ッ! わかりました! でも、70はちょっと! それ、ナイです! 74で! それならなんとかギリで……」

「71」

「7……73!」

「72」


 涙目になり始めたビーグル犬の表情を見てやりすぎたかなと思った私は73で手を打つことにした。


「73でいいわよ、火伊さん」

「う……ありがとうございます」


 ビーグルは溜息をついて「もう帰ります」と一言だけ残してトボトボと帰っていった。……言い過ぎでしかもやりすぎだっただろうか。


 でも実際にビーグルとどうこうなる気はないし。経営者としては掛率は重要なところで交渉も腕の見せどころだ。それでも私はやり過ぎたかとか次回来た時にフォローすべきかどうかなどと思い悩んでしまう。