「ちょっと! 返してよ!」と言って私はビーグル犬の手からスマホを奪い返した。
「どうしたの、すごい剣幕で」
あずちゃんが品出しを終えて私たちのところへ近寄ってきた。厳しい顔をしている私と少しだけ気まずそうなビーグル犬。
「あずちゃん、酷いんだよ! 火伊さん、勝手に私のスマホを奪い取って……」
「メアドとか番号登録したって?」
あずちゃん、もしかして聞いてた? それとも心読み取った?
「う、うん。どうしてわかんの、あずちゃん」
「わかるわよ! ビーグルくんの顔とアンタを見てりゃ。アンタはね、鉄壁すぎんのよ。こんなにビーグルくんがアピってるのに。いいじゃん、アドレスぐらい」
あずちゃんは完全に火伊さんと私をくっつけたいので『こんなことぐらいで馬鹿ね』的なノリだ。そんなノリにビーグル犬も調子に乗っている。
「ですよね、あずささん。僕こんなに由比子さんが好きなのに」
特に恥ずかしがらずに惜しげもなく可愛い笑顔を見せるその態度が嘘くさい、と思うのは私の心はひねくれて腐っているのか。



