私が飛び退いた拍子に持っていたペンシルがコロコロと転がってカウンターから下に落ちた。一瞬、私と彼の間に静寂が訪れる。あずちゃんが店内で品出し(店内の商品のストックを補充すること)をしている音だけが響いていた。


「ペン、落ちましたよ」


 火伊さんはそう言いながらも全然拾う素振りを見せない。『こっちに来て自分で拾え』って言ってるんだ。


 い、行きたくないけど彼は拾ってくれる様子はないし、仕方がなくカウンターの外に出た。おずおずと彼のすぐ側に落ちたペンを拾おうと屈んだ。彼のよく磨かれた赤茶色のビジネスシューズが目に入る。


 何かを企んでいる彼を前に顔を上げることが、立ち上がることが少し恐かった。