「小宮さん」

「はい」

 天気の話や商品の話など当たり障りのない話をしたけど、肝心の話を頭に思い浮かべていると普段ならスラスラと出てくる話題が一向に続かない。ここは単刀直入に聞くしかないだろう。




「小宮さんて相楽由比子さんが好きなんですか」

「ええ」

「えッ!?」

 あっさりと肯定されたので思わず「えッ!?」と俺は聞き返してしまった。……相思相愛なのか、と今更ながら落胆する俺。だけど間髪いれずに彼は俺を見返してきた。




「火伊さんもでしょ。知ってますよ」

「由比子さんはあなたのことが好きなんですよ……? 引越しするって聞きましたけど、彼女から離れるんですか」




 言いたくなかったことではあるが、どうしても黙っていられなかった。



「ええ、彼女の気持ちは知ってますよ。絶対言わないだろうけど。引越しは、まぁ……ちょっと自立しようかと思っただけで」




「自立?」

「両親が買ってくれたマンションですから」




 確かに少し古いマンションではあるが、立派な造りで俺たちの年代であのクラスのマンションを買うにはかなりの額がいるだろう。何百万とかでは買えないのだ。相当、稼いでなければ。だけど、松川工房にそんな給料を払う余裕があるようには見えないので、『やはり』、と思う部分もあった。




 彼の隠すでもなく、飄々とした態度に毒気を抜かれたようになってしまう俺。しかも俺の気持ちにまで気づいてたって……冷静すぎるだろ……