自分の部屋から戻って靴を脱いで上がったらさっき拭き忘れたミィコの靴跡を踏んでしまった。既に雪の塊ではなくて解けて水になっていたらしい。
「冷たッ……ああ、もう……」
私はそう独り言を言うと中へ進んでいく。手にはポカリと薬と冷えピタ数枚。まず、薬よね。
「ミィコ、ほら。風邪薬」
ミィコに水の入ったグラスを持たせて薬を渡した。その薬を口に含みながら、ミィコは私に頼み事をする。
「由比子、悪いんだけど、パジャマ出して、くれる……?」
何その顔。語尾にハートマークがつきそうな甘えた顔。その顔、キライじゃないけど憎たらしい。でも、可愛いので許すとするか。
「どこ?」
「そこのクローゼット」
「ハイハイ、わかりましたよ」
私は後悔する。こんな安請け合いするんじゃなかった、と。クローゼットを開けると我が物顔で居座っていたのは、仁衣菜ちゃんの数着の洋服たちだった。そのうちのひとつのニットにはご丁寧にもウチの店で売った緑の宝石が入ったぞうさんのピアスがブッ刺してある。
一点物のピアスなので仁衣菜ちゃんのもので間違いない。胸の中に沸々と何かが沸き上がる。
おそらく、ここで外して忘れていったものをミィコが忘れないように服に刺したのだろう。
……ニットに穴開くだろが。
いや、開いてんのか。



