あずちゃんか。この時間に電話してくるなんて珍しいな。私はミィコがスゥスゥ寝息を立てているのを確認して電話に出ることにした。




「あ、あずちゃん。どしたの」

「言い忘れてたんだけど、明日、新しい取引先の営業の人、午前中に来るから。少しだけ早く来て」



 明日はちょっと早く出るのか。まぁ、いいんだけど。




「ハイハイ。わかりましたよー」

「今日、これから飲みに行かない? 彼氏、出張中でさ」




 ああ、そういうことね。じゃないとこんな時間に彼氏の休みの日の前の日に電話してくるわけないか。それに私もなんだかあずちゃんと飲みたい気分だった。




「いいね。もう少ししたら、家出れるから」

「オッケー」

 ああ、起きちゃった、ミィコ。少しだけ身体を起こしてミィコがこちらを見ていた。薬でも飲ませておでこに冷えピタでも貼って冷蔵庫にスポーツ飲料か何か、飲み物用意したらすぐに部屋出ようと思っていたのに。




「…………由比子……?」

 目を擦ってこっちを見るミィコの顔はまだ赤い。ついててあげたい気もするけど、タダのお隣さんだし、この前、突き放されたばかりだ。ミィコとはあんまり、話とか。深入りとか。したくない。早くこの部屋から出たい。やっぱりこういう時、私って意気地なし。


「あ、もう切るね!」




「……電話……?」

「うん、私、もう行くから。冷えピタとかある? 貼ってあげよっか。飲み物もいるよね」




「……冷えピタない。冷蔵庫にビールはある」

 ミィコらしい彼の答えにクスっと私からも笑みが溢れた。ここはちょっとだけ世話を焼いてやろう。さっきまで早くこの部屋出たい、とか思っていたけど。ミィコの何気ないミィコらしい一言で私の思考は180度転換する。



 だってそれがAB型だからね? そういう気質なの。ちょっとした言動で私の心はすごく揺れちゃうんだ。




 薬飲ませてからでも、あずちゃんと合流しても遅くないだろう。




「病人がビールなんか飲むなっつーのッ! 今、ウチから持ってきてあげる。ちゃんと寝てるんだよぉ」



 …………かと言ってケジメつけるって話はどうなんたんだ、私はと自分を罵る。都合が悪くなるとついつい放っておきたくなるのは私の悪い癖だ。