「由比子さん、いいなぁ」

「は? 何が?」



 よくねーよって思ってたから彼女の言葉に無意識のうちに口はひん曲がってるし、目は彼女を睨んでるし、慌てて口を隠して顔を逸したけど、彼女は幸いにも気づいてなかった。



 仁衣菜ちゃんは首を傾げてぷぅ、と頬を膨らませて拗ねながらも金具を留めている。意外と器用だね、仁衣菜ちゃん。



「直接教えてもらっちゃって~……私もできないフリするんだったぁ」



 なに言ってんだか。えっちまでしておいて今更そんなの嬉しいわけ? なんて思いつつもここでそんな発言は……いや、ここじゃなくとも仁衣菜ちゃんに言えるわけない。




 私は小心者の繊細な心の持ち主だもの。逆にどうしてお隣さんだったことを隠していたのだと責められそうで言えない。



 何故、言わないのかって? そんなの決まってる。言ったら、最後。私のおウチが隣だと言うことを口実に毎日のように私の家に通いつめ、ついでに隣にも声を掛けるに違いない。



 もう、関わりたくないもん。だから、言わないよ。