「2、3回しっかりとゴムのハンマーで叩けば刻印されますので」



 そう言うとスっと離れる手。徐々に紅潮していく顔と不満気な顔は対象的と言っていいほどに不釣合だろう。奴の営業スマイルに「ありがとうございます」と顔は紅潮してはいるが、それ以外は感情をできるだけ出さないように言った。




 これって私の密かな抵抗。少しは気にしてくれるかな、とか思った私が馬鹿だった。にっこり、と微笑むと次の生徒のところへ行ってしまったアイツ。



 うッ……くそぅ……私って一体、アイツの何? 恋人でないことは確かだ。だけど、友達とは言い難い。セックスしたわけじゃないからセフレでもない。




 ……セフレになりそこねたお隣さん……? 



 いやにしっくりくるんだけど。悲しいほどにしっくりくるんだけど。




 別にセフレになりたいわけじゃない。だけど、おそらく年下の男に馬鹿にされてからかわれていただけなのだと思ったら、かなり凹んだ。





 ふと、刻印された“YUIKO“という字を見て気づいた。



 この刻印……でも、もう遅い。全てが手遅れだよ、アイツは。