「んふふっ、
すっごく気持ち良かったっ…」

俺の腕枕の上で彼女は言った。


「みいなってさ、彼氏とかいるの?」

途中からずっと気になっていたこと。


「えへへっ、なんでそんなこと聞くのーっ?」

なんでって。
なんて答えればいいんだろ。

「うーん。みいな可愛いから
彼氏くらいいるんだろうなって」

彼女の頬がほんのり紅く染まった。
分かりやすい奴だな。

「……可愛くないけど、
いるよっ、彼氏。」

………だよな、こんな可愛い奴放っておく男がいるはずない。

「ふーん。じゃあなんでここ来たの?」

ここへ来る女は大体が彼氏のいない人。
または既婚者で旦那に飽きた女。

「……えっと…」

彼女は口ごもる。

「私……セックス下手で…その…
彼が、、
風俗でも行って教えてもらって来いよ、
って……」

……………。
愛してる女が他の男に抱かれてもいいのかよ……。

やはり彼女は非常に素直で純粋なのだ。
人間の悪い所も何も知らない。
知っているのは自分の目で見たものだけ。

言われるがままにここに来たのだろう。

「それ、彼女に言う言葉か…?」


「えっ?」

「普通好きな女を他の男に抱かせたりしないよ?」

彼女は俯く。

「でもっ…。彼は私をすっごい愛してくれてるんだよっ…。」

ふと口元の傷に目がいった。
痛くないように、優しく、
壊れそうな置物を触るような手つきで傷に触れた。
「これ、そいつにやられたの?」

………。
うん、と頷いた。


「…… でも、悪気はないんだよっ。
彼は、私を愛してくれてる、
殴ることが愛すことなの。
だから痛いことされても全然平気、
すごく嬉しいの。」



俺は思う。

彼女の彼は歪んでいる。

そして彼女も歪んでしまっている。


ドS、ドMだと言ってしまえば
そうかもしれない。

でもこれは愛なのか?
他の男にセックスを教えてもらえ、
なんてこと俺だったら絶対に言わないのに。

でも。
彼女がこれを愛だと言うのなら…。

黙って頷くしかなかった。



♪♪〜〜〜♪♪
彼女の携帯が鳴った。

彼からだろう。

「……もう帰らなきゃ。」

少しだけ切なそうな顔をしたのは気のせいか。

「ハク、ありがとうっ。
すっごく幸せだったよ」


微笑みながら、なんともスッキリとしたような表情で彼女は言った。

立ち上がり、部屋を出て行こうとするその子を咄嗟に引き止めていた。

ぎゅっと抱き締め俺は言う。


「俺の彼女になってよ…。」

本気だった。
今の彼氏より絶対に幸せにする自信がある。

「俺と幸せになろうよ」


彼女は俺の腕を放ち、
こちらに顔を向けた。

そして大きく背伸びをし、
俺の唇に
実に簡単であっさりと、
そしてただ触れるだけのキスをした。

初めて会ったときの彼女の緊張や恥じらう姿が遠い昔のようで、
なんだか懐かしさまで感じてしまった。


これがサヨナラの合図だったのだ。

くるりと俺に背を向け、
扉を押した。

かすかに聞こえた貴方の最後の言葉。

「バイバイ、ハク…。」

その背中に心残りなどはなさそうだった。

‘‘私にはあの人がいる”

そう言ってるみたいで、
一気に寂しさや孤独感が襲ってきた。

彼女と愛し合った数時間。
忘れることはないだろう。


そして今、
彼女を彼の元へ返すことが筋というものか。