* 竜の眠る国 *





「……んな…っ」



 震える声で、振り絞るように呟く。
 思いの外小さいその声は、その場にいる誰の耳にも聞き取れなかった。

 それでも、彼女はその瞳にいっぱいの涙を浮かべ王子を見て、


「―――そんな約束が何になるのです!
 その女のためにわたくしと結婚するなんて…っ

 あなたの心は……手に入らないのに…!」



 気位高い巫女姫の、心からの叫び。

 拘束しようと距離を詰めていた兵士の動きが止まった。



 シン…と静まる中、シオンが静かに口を開く。



「この女を殺したら、永遠に僕も、僕の心も手に入らない」






 強固な石が積み上げられたこの道に、彼女の高く透き通る叫び声が響く。

 それでも、シオンは変わらぬ冷たい瞳で姫を見ていた。




 彼女は、崩れ落ちるように石畳に膝をつく。

 足首まで伸びた漆黒の髪は、ハラハラと解け、彼女の小さな体を隠すように広がった。




「なぜ……っ

 私の方がずっと……ずっと前からお慕いしておりましたのに…!」