夜の帳が下りて、闇が忍び寄ってくる。つい先程までガアガアとうるさく鳴いていたカラスも、いつの間にかみんないなくなり、夜の静けさに包まれた。寂とした空気を打ち破るのは、時々蝋燭を揺らす風ばかりだ。
町外れのここは、この家の他には人の住んでいる場所など近くになく、したがって、昼間でも人が通ることはあまりない。朝早くに牛乳を届けに来る者の他には、時折馬車が土ぼこりをあげて走り去って行くくらいだ。そんな風であるから、私は月に一度荷車を引いて市に買い出しへ行かなければならないし、生活を守るため、着物の繕いものやなにかを引き受けては届けに行かなくてはならない。
 それでも、裏の畑ではちょっとした野菜が採れるし、鶏も時々卵を恵んでくれる。日曜には家からそう遠くはない教会で礼拝をし、町の誰かしらの家でお茶をごちそうになる。だから、町外れで一人暮らしをしていると言っても、それほど不自由をしているわけでも、孤独にしているわけでもなかった。ただ、ちょっと欲を言うと、二十歳そこそこにもなって、恋人の一人もできないのが残念だ。