「コンビニのカメラにうつってるでしょうから、きっと今頃警察がこの車も割り出してるわ。そしたら私の家族に電話がいって、それから無理やり拉致られたって判るでしょう。今ここで停めて降りてくれたら、私は何も知らずに済むのよ。一人で頑張って逃げて頂戴、それは邪魔しないから」

 むしろそれなら応援もしてあげるわよ!心の中で乱暴に付け足した。この車を停めて、すぐに一人で逃げておくれ。私達はここで是非ともお別れしたい。

 だだーっと言いまくった。どうやら私はまたやっかいなことに巻き込まれてしまったらしい。だけど、今度は息子まで一緒なのだ。どうにかして、更に物事が進む前に止めてもらわなければ。

 でないと――――――――――・・・・・桑谷さんが、恐ろしいことになるに違いない。

 ただそこに立っているだけで周囲の人間を緊張させる迫力のある夫が、怒った時の迫力は半端がないのだ。背中に燃え盛る炎の映像まで見えるほどで、冷や汗も脂汗も瞬時に大量生産される。あのいつもは冷静な黒目を細めてじっと見詰める、それだけで、ああ、死んだかもと思ってしまうほどだった。

 いやいやいやいやいや・・・平和な年末年始を迎えたいのよ、私は!そんなのごめんよ、仕事も忙しいこの時に、どうしてプライベートまでこんな・・・。

 私が言いたいことだけ言ってつらつら考えことをしている間、犯人も色々と考えたようだった。さっきよりは確実に色の戻った顔色で、ハッキリと言う。

「まだ検問もしていないなら、今のうちってことだよな。どうせだから逃げるまで付き合ってもらうぜ。赤ん坊だけだったら無理だったけど、運よく母親も一緒なわけだしな」