「お待ちしておりました…さぁどうぞ」
ギィ、とトランプ兵が扉を大きく開くと、ガンを飛ばしながら猫が入り、その後から白兎と私が扉をくぐった。
「…だから時計を止めたのか。急いで探させるために。」
まさかと思うほど広い部屋の最奥に、背もたれの高い、少し古そうな金色の椅子に座る紅いドレスを纏った女性がいた。
「まぁ…勘のよろしいこと。
その通りですわ。」
ゆったりとした口調で猫の乱暴な言葉に答える女王様。
「どういうつもりだ…なぜ俺らを招く必要がある?」
「…ふふ」
猫の鋭い眼に睨まれても、その余裕の表情は崩れず、逆に笑みを深く、暗くする女王様。
「…そこまでは、考えが及びませんか?
…あなた方がここで捕まってしまったら…ふふ、どうなるのでしょうね…」
「!!」
言葉と共に女王様が指を鳴らすと、周りにかまえていたトランプ兵が私たちを羽交締めににした。
痛…
「離せ!!きたねぇぞ!!」
「あら…前々から感じていたのですけど…あなた、少々お言葉がすぎますわ。
…トランプ兵」
「は…」
猫を取り押さえていたトランプ兵が、ポケットからハンカチを取り出し、猫の口をふさいだ。
「むぐ、…む…!」
片腕だけ自由になった猫は、じばたばたと動いて逃れようとするが、すぐにぐったりと動かなくなった。
「猫っ…なにを」
「しっ…」
私の隣で同じように捕まっている白兎が険しい顔をして、静かにと言った。
「…薬をかがされたんでしょう。
…今ここで騒いでは全滅です。」
「……」
…確かにそうだけど…でも、じっとしてられないよ。
「それは賢明な判断ですわ…。こんなくだらないことで、あなた方に眠っていただきたくありません」
「くだらない、ですか…」
「くだらないわ…
仲間など、生温い。
信頼できるのは、忠誠心だけ」
「悲しい道を歩まれたのですね。
心中お察しします…女王様?」
「あなたも口が達者になられたわね…」
空気が段々と、重く厚くなっていくのをピリピリと感じた。