「アリスは、実験室をご覧になりましたか?」
「実験室って…あの…いっぱいある?」
「そうです。あそこで毎日…実験が行われていました」
「…実験?」
そうです、とトランプ兵がうなずく。
「なんで…」
「その当時、内戦…と言うには少し大袈裟ですが…そう、クーデターみたいなものがあったんです。
それで、襲ってくる住人達に対抗するべく、私たちトランプ兵は実験台にされました。」
「…」
なんで…
そんなことが…あったの…?
「私はその中でも、特に大きな実験の道具にされました。」
「それは…」
「…そう、五感を取り戻す事です。」
トランプ兵は、一呼吸置いて続けた。
「ご存じだと思いますが、トランプ兵には五感が存在しない…もしくは、鈍っている者がほとんどです。
私はそれを克復するための手術をたくさんうけました。
目を開き、ショックを与えられ、脳を」
「そこは…いいよ」
そうですか、と言ってトランプ兵の口は過去を語る。
「そう…そして、長い年月をかけ、私は五感を手に入れた。
ついでに、なにかの反応で一度見たものに変化できるようにもなりました。
けれど…」
トランプ兵は遠くを見つめる。
「…クーデターは、治まっていた。
…私は国に必要なくなった。
そして、あの牢屋に閉じ込められていたんです。」
「…そんな…それって…」
「ええ…大変身勝手な行動です。
なので私は、憎き女王にいつか復習をしてやろうと思い、物語が狂うのをずっと待っていました」
「…そして、私が通りかかった…」
「そうです。」
「でも、どうして白兎の姿をしていたの?」「あぁ。あれは…」
トランプ兵はもう一度こっちに視線を戻し
「私の居た牢屋の前をたまたま通りかかったので。
そしてそれを、白兎と呼んでいるのを聞いたので、とりあえず変わってみたんです。」
「そう…」
結構適当な理由なんだ…
「そんなわけで、白兎の居場所ならお任せください」
にこりと笑う。
「匂いを辿ればすぐに見つかります」
「……」
五感、発達させすぎたんじゃないの?
くんくんと鼻を鳴らすトランプ兵を見ながら私は思った。